アルツハイマー病の原因遺伝子であるプレセニリン1(PS1)は、従来アミロイド前駆体蛋白(APP)の膜内切断とアミロイドβペプチドの産生に関与するプロテアーゼ(γ-セクレターゼ)としての機能に焦点をあてて研究が進められてきた。近年PS1がN-カドヘリンと結合してシナプス部に存在していることが示された。アルツハイマー病の病態を最も正確に反映するのはシナプス脱落の程度であることから、PS1とN-カドヘリンの結合の神経細胞における役割を解明することが、アルツハイマー病の病態を理解する上で需要であると考える。我々は、ヒト神経芽細胞腫の培養細胞株であるSH-SY5Y細胞に正常型PS1と機能喪失型(D385A)PS1を安定に過剰発現する細胞株を確立し、N-カドヘリンを介した細胞間接着に与える影響を検討した結果、PS1には、N-カドヘリンの成熟化と、膜表面への移送を促進する活性があることを示した。N-カドヘリンの輸送は、神経細胞においては、どの時点でどこにシナプス形成するか、つまりシナプス可塑性の調節に関与している可能性があり、アルツハイマー病の病態を考える上で興味深い知見と考えた。また、膜表面に移送され、細胞間接着にあずかるN-カドヘリンは、SH-SY5Y細胞のグルタミン酸負荷により、NMDA型受容体からのカルシウム流入をトリガーとして細胞膜直下で切断を受ける。この切断がグルタミン酸負荷後5分から15分という比較的早いフェーズでのSH-SY5Y細胞間接着状態の変化を調節している事を示した。シナプス結合も神経伝達物質での刺激後ダイナミックに結合強度の変化を来たしている可能性があり、そのメカニズムへのPS1機能の関与を示唆すると言う意味で興味深い。
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