視覚神経系では網膜で捉えた画像の情報が、動き、色、形といった視覚属性に分割され、異なった経路で処理されている。情報分割によって、視覚神経系は外界の立体構造の知覚や顔の識別といった複雑で困難な課題をいくつも同時に、高速に処理している。我々は現在までに、マカクザル V4野において、従来知られていた視覚画像中に存在する線分や明暗の境界などのエッジに応答する神経細胞だけではなく、エッジに全く応答せずテクスチャーと呼ばれる物体表面の模様にのみ応答し、その密度などを表現する細胞が存在することを示している。この結果はV4野においてエッジとテクスチャーの情報が独立、並列的に処理されていることを示している。動きや、色、形といった基本的な視覚属性は視覚情報処理の初期段階で分割されていることが知られているが、物体認識に至る過程でどのような情報分割が、なぜ、どういう方法で行われているか、そのようなシステムはどのように形成されるのか、といった問題についてはまだ明らかになっていないことが多い。エッジとテクスチャーの情報分割がどの部位で行われているかを明らかにする目的で、マカクザルV1、V2、V4野において神経細胞のエッジおよびテクスチャーに対する応答を調べた。V1、V2ではエッジよりもテクスチャーによく応答する細胞は見られなかったが、空間的均一度の高い正弦波格子よりもランダムテクスチャーによく応答する細胞は見られた。テクスチャーの視覚属性として、その要素配置のランダム度が大きな意味を持ち、V1、V2における局所的ランダム度の検出が、エッジとテクスチャー情報の分割に寄与していると考えられる。またこのようなランダム度の検出には古典的受容野の周辺野が関与していると考えられる。
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