大脳皮質の神経細胞移動の様式については、locomotion(脳室面から脳表面にまで伸びた放射状グリアの突起に沿って細胞が移動する「教科書的な」移動)とsomal translocation(移動細胞は最初から脳表面まで突起を伸ばしており、基底膜との接触を維持しつつ、その突起を短縮しながら細胞体が脳表面へと移動)という2つの速い移動様式に加え、我々が昨年までに発見・命名した多極性移動(細胞体周囲に多数の細い突起を有し、それらをさかんに伸縮させながら、ゆっくりと移動する)という遅い移動様式(前二者に比べ1/10程度の移動速度)が存在する。本年度は、(1)多極性移動の軌跡、(2)速い移動細胞と遅い移動細胞が存在しても、"inside-out"様式が乱されずに層構造が整然と形成されるのは何故か?、(3)脳室帯から辺縁帯直下まで、教科書通りにlocomotionで移動していく細胞はどの程度いるのか?、に特に着目して解析を行った。その結果、(1)多極性細胞の細胞体及び突起は、脳室面に平行で、かつ冠状面内に配向する傾向が強く、中間帯の軸索束に沿っていることを見いだした。一方、移動そのものは、全体としては脳表面に向かっているものの、様々な方向に少しずつ移動しては停止し、ある時は戻ることもあることや、長い時間ほぼ同じ場所に留まっている細胞もいることなどを見いだした。なお、留まっている場合でも、突起は盛んに伸縮を繰り返す特徴的な運動を示した。(2)脳室帯で誕生した殆どの細胞が、一度多極性細胞として脳室下帯・中間帯に停滞し、その後locomotion細胞に変換して脳表面へと向かうことを見いだした。すなわち、上記の三種の移動は、従来考えられてきたように三種の異なる細胞によって使われるというより、同じ細胞の異なる移動時期を反映している可能性を示唆した。(3)教科書タイプで脳室面から脳表面にまで移動する細胞は実際には殆どなく、多くが多極性移動の時期を経ることを見いだした。
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