1.DNAマイクロアレイ法を用いた研究で、Trypanosoma cruzi感染細胞では宿主アポトーシス経路の初期過程を抑制する遺伝子c-FLIPの転写が上昇し、さらにそのタンパク質含量が顕著に増加していることが明らかとなった。そこで、c-FLIPが本アポトーシス抑制の主要な因子であるかどうかを調べるため、RNAiの手法を用いc-FLIPをノックダウンしたところ、感染細胞でアポトーシス抑制が部分的に解除された。この結果はT. cruziが宿主抑制因子c-FLIPを利用することによりアポトーシスを抑制し、自らが生き残っていくという可能性を示している。 2.T. cruziライセート中にc-FLIPの2種類の抗体(N末端およびC末端を認識する抗体)と反応するタンパク質が検出された。2次元電気泳同で、このタンパク質は分子量がc-FLIPと近い値(約55kDa)を示し、等電点はc-FLIPよりやや酸性を示した。現在このタンパク質がc-FLIPのオルソログであるか検討している。 3.ラットにT. cruzi Sylvio X10/7株またはSylvio X10/4株を感染させ、急性期および慢性期動物実験モデルを作製した。急性期モデルでは感染7日後、慢性期モデルでは感染350-370日後に心臓を摘出し組織切片を作製した。TUNEL法を用いて染色したところ、急性期ではリンパ球系の細胞でアポトーシスが観察されたが、感染細胞でアポトーシスを起こしているものは認められなかった。これはin vitroにおける結果と一致している。慢性期モデルではアポトーシスを起こしているものは検出できなかった。 以上、T. cruzi感染細胞における宿主アポトーシス抑制因子としてc-FLIP分子を同定した。またin vivoにおいて、感染心筋細胞でアポトーシスが起きていないことを明らかにした。
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