熱帯熱マラリア原虫チオレドキシン系抗酸化タンパク(1-Cys型Prx、2-Cys型Prx、チオレドキシンペルオキシダーゼ-2:TPx-2、チオレドキシン:Trx)について、赤内期発育型でのmRNA発現パターンを調べたところ、それらは、原虫細胞での代謝が亢進するトロホゾイト・シゾント期に特異的に発現するものと、赤内期全体でほぼ構成的に発現するものの2つのタイプに大別された。これらのうち、1-Cys型Prxと2-Cys型Prxは、ぞれぞれ、トロホゾイト期に特異的に発現するタイプと、赤内期を通じて構成的に発現するタイプに分類され、異なる発現パターンを示した。昨年までにおこなった逆遺伝学のアプローチから、2-Cys型Prxは、生体内寄生環境に起因して派生する活性酸素種(ROS)および、活性窒素種(RNS)などの酸化ストレスに関連して機能するタンパクで、1-Cys型Prxは、より基盤的な代謝過程、例えば原虫のヘム代謝に起因する酸化ストレスと関連して機能するタンパクであると推測していたが、今回見出された発現パターンもこれら抗酸化タンパクの原虫細胞での生理機能とよく相関する知見と考察される。これらのことから、1-Cys型Prx、2-Cys型Prxは、原虫細胞において異なる発現調節メカニズムの下で異なる生理的役割を担う抗酸化タンパクであると予想される。また、これらPrxではmRNAとタンパクの発現パターンがほぼ完全に一致するので、その発現は遺伝子転写の段階で調節されていると考えられる。1-Cys型Prx、2-Cys型Prxは、これまでの取り組みから原虫の細胞質に局在することがわかっているが、今回、熱帯熱マラリア原虫のゲノムデータベースで確認されているもう1種類のチオレドキシンペルオキシダーゼ、TPx-2についても、それ炉ミトコンドリアに局在することを明らかにした。このことから、マラリア原虫においても他の生物種同様にミトコンドリア独自の抗酸化系の存在が示唆された。TPx-2はトロホゾイト・シゾント期に特異的な発現パターンを示し、この発育時期の原虫ミトコンドリア機能との相関が考察された。
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