研究概要 |
"理科離れ"や、科学が難しいと敬遠される理由として、対象があまりに小さく肉眼では識別不可能なために、実感として捉え難いという印象を持つ生徒が多いことが上げられる。特に新世紀の科学技術分野では、ますますそのような状況になってきている。このように実感し難いものに対して、いきいきとしたイメージをもたせることを、本研究の目的とする。すなわち、理科に対する興味・関心を培い、論理的思考力や創造性を伸ばすためには、まずは科学の対象を実感できることが必要なのだ。本研究ではそのカギが、五感を総動員させることにあると考える。 そこで本研究では、化学反応や分子構造を嗅覚、味覚、触覚を用いて理解してもらうこと、さらに,、分子の構造がわずかに変わることで、香りが大きく異なること、鏡像異性体により香りや味に大きな違いがあることを体感してもらうための実験プログラムを開発した。これらの多くの感覚は、細胞の表面の受容体に分子が結合することで、認識される。この事実を、実験者が実感し、引き続き、視覚と触覚に訴える分子模型を利用した生物化学実験で、分子(受容体)と分子(香り物質、ホルモン)が結合し、その情報が細胞内に伝達される様を、理解させた。また分子間の相互作用を理解するために、疎水性樹脂と香り物質の吸着実験を行った。さらに、ホルモンによって、生きた卵細胞が劇的に変化する様も観察させ、臨場感を高める工夫を行った。この生物試料は、生殖・発生の観察にも最適であるので、分子から生命の連続性を、化学-生物学分野横断的な授業を行うことで、理解させることが可能になった。以上まとめれば、本研究は「新世紀型理数科系教育」として求められる科目間横断的カリキュラムの構築に成功した。さらに本研究では、中学校以上のレベルの理科室であれば、どこでも実習を実施できるように、一連の実習内容をキット化しテキストも作成した。
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