研究概要 |
本研究では,従来の理科授業における数学の位置づけと課題内容を見直し,生徒の科学的,数学的思考力を育むための授業カリキュラムについて検討を行った。すなわち,実験や観察を通して科学的法則を帰納するのではなく,理論的モデルによって科学的法則(数学的内容)を演繹し,科学的法則や数学を応用する現実的な課題として実験を位置づけることの効果を検討した。本年度は,混合物の分離・同定原理の理解に関する授業カリキュラムを開発し,それに基づいて授業実践を行い,それが生徒の科学的,数学的思考力に及ぼす効果について,従来の理科授業と比較した。具体的に,高校1年生が薄層クロマトグラフィー(TLC)を用いて「味の素」に含まれるグルタミン酸を分離・同定する実験を計画し,実施した。 高等学校1年生2クラスを実験群と統制群に割り当てた。対象とした授業は,理科総合A「物質の構成」の中の小単元「物質の成りたち」(実験群4単位時間,統制群3単位時間)の一部であった。実験群は,TLC原理を最初に説明し,それを応用して,味の素に含まれるアミノ酸を分離・同定することを目標とする授業を計画した。それに対して,統制群では,TLC原理を導くことを最終的な目標とした授業を計画した。 授業後の自己評価アンケートおよび評価テストを分析した結果,以下のことが分かった。(A)実験群の生徒は,統制群の生徒よりも,TLCによる混合物の分離・同定原理の知識を用いた課題の得点が高かった。(B)実験群の生徒は,統制群の生徒よりも,TLCの有用性を実感し,かつ身近な物質の多くが混合物であることの認識を高めた。
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