研究概要 |
本研究では,従来の理科授業における数学の位置づけと課題内容を見直し,生徒の科学的,数学的思考力を育むための授業カリキュラムについて検討を行った。すなわち,実験や観察を通して科学的法則を帰納するのではなく,理論的モデルによって科学的法則(数学的内容)を演繹し,科学的法則や数学を応用する現実的な課題として実験を位置づけることの効果を検討した。本年度は,速さの変わる運動に関する授業のカリキュラムを開発し,それに基づいて授業実践を行い,それが生徒の科学的,数学的思考力に及ぼす効果について,従来の理科授業と比較した。具体的に,中学3年生3クラスを実験クラスI,実験クラスII,統制クラスに割り当てた。実験クラスIでは,最初に,時間と速さの関係(物理法則)を学習し,その知識を用いて,現実的な課題の解答を発見した(福岡-大阪間をつなぐ輸送用のパイプをつくったとき,最も速く目的地に届くために,斜面の角度を何度にすればよいか)。実験クラスIIでは,最初に,時間と速さの関係(物理法則)を学習し,その知識を用いて,現実的な課題の解答を確認した。統制クラスでは,時間と速さの関係について,実験を通して物理法則を帰納する(物理法則自体を発見する)といった従来の教授方法を用いた。その結果,実験クラスIの生徒は,統制クラスの生徒よりも,時間と速さに関する基本的な問題での成績が良かった。また,実験クラスの成績高の生徒は,理科の有用性の認識に関して高く評定したが,成績低の場合,統制クラスの生徒の方がむしろ,授業に対して興味を持った。以上の結果から,物理法則自体を発見するよりも(統制クラス),物理法則の知識を用いて,現実的な課題の解答を発見するために試行錯誤する方が(実験クラスI),物理法則の学習に効果的であることが示唆された。
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