研究課題/領域番号 |
15021203
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
三浦 秀一 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (80190586)
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研究分担者 |
岸本 恵実 大阪外語大学, 留学生日本語教育センター, 講師 (50324877)
八尾 隆生 広島大学, 大学院・文学研究科, 教授 (50212270)
中嶋 隆蔵 東北大学, 大学院・文学研究科, 教授 (10004061)
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キーワード | 善本 / 底本 / 出版 / 写本 / 抄本 / 刊本 / 書肆 |
研究概要 |
東アジアにおける「個性」的な出版物の研究を目的とする本研究課題遂行のために、研究代表者は、平成15年度、研究分担者がそれぞれに「個性」的だと判断した時代や地域を異にする出版物について、その研究成果を発表する機会を設けた。研究会の成果としては、発表に対する質疑応答をとおして発表者が捉えた「個性」の意味を深化・拡大ないし普遍化させ、それらを各発表者に還元したことと、共同討議における「本」を主題とした自由な議論のなかで、これからの時代に通用しうる「善本」や「底本」概念策定のための基礎的な問題点を洗いだした点をあげることができる。平成15年9月20日、東北大学文学研究科を会場とした(B)班主催の「善本」と「底本」談話会(第一回)の発表題目は、1.宮城県図書館蔵『四書大全辯』について(発表者:三浦秀一)2.『國朝刑律』(ベトナム)の諸版本、写本についで(八尾隆生)3.宋版一切経附載音釈について(山田健三)4.明刻六祖壇経諸本と嘉興蔵(中嶋隆藏)。平成16年1月9日、東洋大学文学部を会場とした(B)班および(E・出版政策の研究)班合同研究会におけるB班班員の発表は、2.王元貞校本『新増説文韻府群玉』の流布(発表者:住吉朋彦)3.逸存書を中心とする王守仁語録の研究(永冨青地)5.東亜同文会および東亜同文書院とその出版物について(藤田佳久)である(題目前の数字は、発表の順番)。以下、「善本」や「底本」をめぐる議論の一端を紹介する。そこには次年度において議論が深められるべき課題も含まれる。「東北大学附属図書館貴重図書等指定基準」によれば、中国語による刊本の場合、明代正徳以前に印刷された書物は無条件に貴重図書に指定され、それ以降の書物に関しては「伝本が少なく資料的価値が高いと認められるもの」が貴重図書とみなされる。ごく一般的な規定ではあるのだろうが、それでも「資料的価値云々」とある如く、かかる公共機関の指定基準からですら指定者の主観性を完全に排除することは困難であり、われわれは、むしろこうした困難さを前提として「善本」や「底本」を見定める必要がある。「善本」や「底本」を指定しようとする者の主観性を明確にし、そしてその主観性を他者からの批判に耐えうるものへと鍛え上げること、その過程を経て提示された「善本」や「底本」が、これからの時代に通用しうるそれらだと言えるだろう。
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