1 『羅葡日辞書』の原典との対照研究 日本イエズス会により1595年天草で出版された『羅葡日辞書』は、表題や序から、アンブロージョ・カレピーノの辞書をもとに編纂されたことが明らかである。カレピーノのラテン語辞書は1502年に初版が出版されてから、ラテン語の見出しに次々とヨーロッパ各国語の対訳が付され、各地で数多くの版を重ねた。『羅葡日辞書』は、同時代のカレピーノと比較するとラテン語の見出しや引用文から見て、1570年リヨン版に始まる系統の本文に近いようである。 『羅葡日辞書』は、日本での布教という実践的な目的に合わせて大きく改変されている。第一に、他のヨーロッパの版にはないポルトガル語・日本語の対訳が付けられている。また第二に、学習と携帯の便に配慮して簡略化されていることが挙げられる。見出しの数を大幅に減らし、引用文も短くされており、大きさ自体も持ち運びしやすいよう小型化されている。しかし一方、慣用表現の例は省略されていない場合が多く、またラテン語の活用形が原典より丁寧に表示される傾向にあるなど、学習者にとって有用な辞書になっている。 2 天草版『アルバレスラテン文典』の独自性 『羅葡日辞書』研究を進めるうちに、『羅葡日辞書』の出版の前年1594年に出版された天草版『ラテン文典』の独自性にも注目するようになっている。これは当時イエズス会で公式のラテン語教科書として認められていたマヌエル・アルバレスのラテン文典に、日本でポルトガル語・日本語を付して編集したものであるが、天草版を原典と対照させることにより、日本語についての説明などに原典にはない独自の用語や概念が見られることが明らかになりつつある。
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