1「羅葡日辞書」の原典との対照研究 日本イエズス会により1595年天草で出版された「羅葡日辞書」は表題や序から、アンブロージョ・カレピーノのラテン語辞書をもとに編纂されたことが明らかであるが、同時代の「カレピーノ」と比較すると見出しや引用文から見て、1570年リヨン版に始まる系統の本文に近いようである。 「羅葡日辞書」を1570年リヨン版と比較すると、単に見出しや古典からの引用が省略され簡略化されているだけでなく、ラテン語の変化形が原典より丁寧に表示され、見出しがアルファベット順に並べ替えられるなど学習者にとって有用な辞書になっている。さらに、「羅葡日」編者が原典の見出し以下の内容を再編集してポルトガル語訳・日本語訳を付した様子が明らかになりつつある。 2 バレト自筆「葡羅辞書」の研究 日本イエズス会においてラテン語教師や司教セルケイラの秘書として務めたマノエル・バレトによって、1607年ごろ編纂された写本「葡羅辞書」三巻がリスボン科学アカデミー図書館に残されている。この辞書は本文のほかに序文、凡例、ポルトガル語・ラテン語参考書目録などを有し、編纂作業に関する詳細な情報を提供している。本文はポルトガル語を見出しとし、ラテン語の対訳と古典の文例が示されている。本文の主要な典拠は、キリシタン版羅葡日辞書、ジェロニモ・カルドーゾの羅葡・葡羅辞書、マリオ・ニゾリオのキケロー用例辞書、カレピーノのラテン語辞書、の四つの版本とみられる。 バレトの書いたものとしては従来すでに、ヴァチカン図書館蔵写本(1591年写)及び平家物語難語句解と称される大英図書館写本(1592年頃写)の二つの自筆資料とキリシタン版フロスクリ(1610年刊)が知られており、このうえに自筆本葡羅辞書が加わったことは、キリシタン文献制作の背景と過程を考えるうえで極めて重要である。
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