口伝を伝承の主要手段とする祭祀儀礼演劇において、戯曲構成をはじめとして演技表現、演出方法といった独自の特徴をもつ型の形成とその意味は、明確にされてこなかった。各地の祭祀儀礼および道教科儀の古記録抄本を分析し比較検討することによって、型の形成にいたる展開を解明することが可能となる。 さらに、古記録抄本だけでなく、実際にその抄本にもとづいて祭祀儀礼演劇を現在でもおこなっている実例をとりあげ、抄本文献と実践とを照合させながら立体的に再現し、伝承されてきた型の意味するところをより明確化することができた。 事例の中で、一例をあげれば、重慶における延年祭祀のひとつである年に一度の「太平延生」とよばれる祭礼は、儀礼、道教科儀、演劇の各要素を含んだ複合的な祭事となっている。これを有機的に比較対照することによって、相互の関係の一端を解明していくことができた。 あるいはまた、山西省の『礼節伝薄唐楽星図』など、専門の従事者であった楽戸という伝承者集団が伝えてきた祭祀内容の抄本を、現在の演出構成と比較検討した。 これらによって、抄本を立体的に読み解くことを試み、従来明確でなかった祭祀儀礼演劇の表現形態の様式を明らかにした。今後は抄本のさらなる調査および記載の意味をどこまで実際の上演に照らして分析しうるかが課題である。
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