昨年から今年度、宮崎県の公文書で見つかった資料を手がかりに、全国的な調査をおこなった。これについては、第三回東アジア出版文化に関する国際学術会議などで発表した。この中では、これまでの調査を中心に、公文書の印刷実態を発表した。特に公文書においては、明治六年前後より地方でも活字印刷が始まっており、かなり早い時期から政策の即時性を印刷に求めていたことがわかった。その他にも役所では石版、こんにゃく版、謄写版、青焼きなどの数多くの複写技術が採用されている。しかしながら、現在の状況では、こんにゃく版や青焼きといった複写技術が印刷史の中で、正確に把握されていなかったこともあり、技術史的にも不明な点が多く、今後も調査を続け明らかにしていきたいと考えている。現在調査中の段階ではあるが、このような数多くの印刷技術が一般大衆に広まっていったと考えられ、これらの拡がりが逆に、役所における洋紙や和紙の使用状況にも反映されていったと考えられる。今後は印刷がどのように民衆文化とかかわり、影響を及ぼしたのかを検討していきたい。 その他、資料保存についても言及した。例えば明治二〇年代より昭和二〇年代までよく見かける「こんにゃく版」などは、現状のままでは印刷面が次第に薄くなり消えてしまう可能性のあるもので、資料調査や印刷技術の調査だけではなく、使用された材料や、これらの入手経路、素材の科学的分析の必要性についても検証する必要があることを述べた。
|