血清刺激によるc-mycの発現亢進とTGF-βによる発現低下に関わる配列として昨年度報告したTIE/E2F配列に、がん遺伝子産物c-SkiがSmadを介して結合し、TGF-βシグナルによるc-mycの発現低下を解除することを見いだした。この作用は、従来知られているc-skiの機能では説明できず、c-skiが結合して不活性になったSmadはTIE/E2F配列により安定に結合し、活性のあるSmad複合体に競合的に作用するという新たな作用機序が示唆された。また、血管内皮細胞においては、特異的なTGF-β受容体の存在により、TGF-βによってBMPと同様のSmad(Smad1やSmad5)が活性化され、Id-1の発現を亢進することで遊走能が活性化されるが、TGF-β/BMPのシグナルとNotchのシグナルが共存すると、これらの協調作用によってHerp-2の発現が強く誘導され、Herp-2は、Id-1に結合し分解を促進することによって、内皮細胞の遊走を逆に抑制することを示した。さらに、大腸がんで報告された変異SmadであるSmad2D450Eは、この変異と相同な部位に変異を導入したSmad3D407Eとは異なった機序でSmad3を介するシグナルを抑制することを見いだした。TGF-βシグナルの異常による浸潤能の獲得に関与する標的遺伝子の候補としてId-1とc-Junの作用を3次元培養浸潤モデルによって検討したが、浸潤能を亢進する活性は確認されなかった。
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