本研究課題は、概日リズムと発がん制御とのクロストークの研究である。これまでの研究で、時計遺伝子mPer2のノックアウトマウスにおいてリンパ腫が発生することが知られている。本研究課題では、哺乳類時計タンパクmPER2について、細胞内でどのような因子と複合体を形成しているのかを、複合体タンパク精製とそれに引き続く質量分析による解析で明らかにする。 我々は、Tet-Offシステムを用いて薬剤依存性にflag-mPer2遺伝子の発現が制御できる安定細胞株を作成した。このTet-Off / flag-mPer2細胞株を大量培養し、得られた細胞抽出液をまずグリセロール濃度勾配遠心分離によって文画し、抗flag抗体を固定したアフィニティーカラムを用いてflag-mPER2を含むタンパク複合体を精製した。得られたタンパク複合体をSDS-PAGEにて展開し、タンパクを分離した。特異的なバンドを切り出し、トリプシンでゲル内消化したのち、MALDI-TOF MS/MS法にて質量分析を行った。その結果、いくつかのタンパクが同定されたが、そのうち細胞分裂などに関連する可能性のある一つのタンパクについて詳細な検討を加えた。得られたタンパクのcDNAを取得し、NIH3T3細胞にmPer2と共に一過性に発現させ、実際にこのタンパクとmPER2が細胞内で相互作用することを免疫沈降法で確認した。現在、このタンパクの概日リズムにおよぼす機能と、発がん制御につながる機能との両面から詳細に検討している。今後、mPer2以外の時計遺伝子についても同様に安定発現細胞株を樹立し、タンパク質複合体の解析を行っていく予定である。 また、細胞レベルでの研究の他に個体レベルでmPER2発現と発がん制御との関連を解析するために、Tetシステムを利用した時間的な発現調節が可能な遺伝子導入マウスの作製を行っている。現在、遺伝子導入マウスが複数ライン取得できており、導入遺伝子の発現が適切に認められるかを検討している段階である。
|