発がんを防ぐための生体防御システムとして、免疫系が重要な役割を担うことは論を待たない。しかしながら、本来、がんは内在する自己の細胞に由来するため、がん免疫への取り組みには広く、自己組織に対する抗原認識機構を理解することが本質的に重要である。すなわち、共に自己に由来する正常細胞とがん細胞との識別がどのようになされるかを理解することが、免疫システムによるがん細胞の認識機構を明らかにするために必要不可欠である。本研究では、自己寛容(self-tolerance)の成立・維持機構に働く遺伝子の機能解析に焦点を当て、免疫システムによるがん細胞の認識機構と自己免疫との新たな接点を探った。すなわち、AIRE(autoimmune regulator)は遺伝性の自己免疫疾患APECEDの原因遺伝子であるが、本研究ではAIREが2つのPHDドメインをもつことに着目し、E3 ligaseとしてのAIREの機能を解析した。その結果、N末側のPHDドメイン(PHD1)がE3 ligase活性をもつことが明らかになった。次いでAIREのE3 ligase活性とAPECED発症との関連を検討する目的で、APECED症例で報告されているPHD1 missense mutant (C311YおよびP326Q)を作製し、in vitro ubiqultylation assayを行ったところ、これらのdisease mutantでは野生型AIREと比較しE3 ligase活性が著明に減弱していた。Disease mutantでE3 ligase活性が減弱していることから、AIREのE3 ligase活性が自己寛容の成立過程に重要な役割をはたしていることが示唆され、今後はAIREによってユビキチン化される基質の同定が重要な課題と思われる。
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