腫瘍の形成・維持に重要な酸素と鉄の供給維持の分子機構を解明し、癌の治療法の開発を目ざす。すなわち、1)ヒト特異的な低酵素応答の分子基盤を解析し、2)鉄の供給に重要なヘムオキシゲナーゼ(HO)の低酸素による発現制御機構を明らかにする。低酸素状態は腫瘍、動脈硬化、虚血性心疾患、脳血管障害など、先進国における主要な死亡原因である多くの病態に関与する。ヘム分解系の律速酵素であるヘムオキシゲナーゼ(HO)には、構造的に似たアイソザイムであるHO-1とHO-2が存在する。HO-1には、ヘムなどにより誘導されるという特徴があり、この誘導現象は生体防御に重要と考えられる。しかし、多くのヒト細胞では低酸素によりHO-1の発現は低下する。すなわち、低酸素により誘導される転写抑制因子Bach1がヒトHO-1遺伝子の転写を抑制する。一方、HO-2はヘムタンパクとしての機能も推定されており、その発現レベルはほぼ一定に維持されると考えられてきた。しかし、HO-2の発現も低酸素により低下することを明らかにした。また、HO-2と相互作用する因子を単離し、その生理機能の解析を進めている。さらに、ヒト赤芽球性白血病細胞株YN-1を低酸素に曝露すると、ヘムおよびグロビンの合成が刺激され、その結果、ヘモグロビン合成が亢進する事を見いだした。さらに、YN-1を低酸素に曝露し、経時的に発現が変化するmRNAをDNAマイクロアレイ解析により同定した。既に、低酸素曝露により誘導される興味深い分子を複数同定し、解析中である。さらに、無血清培養細胞株を用い低酸素刺激によるヘモグロビン合成刺激機序について解析を続けている。
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