がん細胞の浸潤、転移の機構を解明するためには、細胞運動の制御機構の理解が不可欠である。細胞運動には、細胞の極性化と細胞骨格の再構築が必須であり、これらはいずれもRho、Rac、Cdc42といった低分子量G蛋白質によって制御されている。この中でもとりわけRacは、葉状突起とよばれるアクチンに富んだ突起を形成することで細胞運動の際の駆動力を提供する。CDMファミリー分子DOCK2及びDOCK180はいずれもRac活性化を介して細胞運動を制御していると考えられるが、その分子機構は不明である。本研究はDOCK2、DOCK180の機能並びにそのシグナル伝達を解明することを目的としており、本年度は以下の点を明らかにした。 1)DOCK2がT細胞抗原受容体の下流で機能し、免疫シナプス形成を介してT細胞の分化、成熟、増殖応答を制御することを明らかにした。 2)DOCK180の各機能ドメインの意義を明らかにすべく、コンディショナルノックアウトマウスの作製を行った。 3)DOCK2がCED-12の哺乳類ホモログであるELMO1とSH3ドメインを介して会合することを示すと共に、DOCK2-ELMO1相互作用がDOCK2によるRac活性化に必須であることを明らかにした。
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