物理化学的ストレスやサイトカインは、DISC(Death Inducing Signal Complex)を介したシグナル伝達経路を経て、MAPKスーパーファミリーであるJNKやp38のSAPK(stress-activated protein kinase)カスケードを活性化し、ストレスやアポトーシスに応答する。SAPKはCRE(cAMP response element)を持つ遺伝子群の転写活性化因子CREB/ATFファミリーの一つATF-2を活性化する。ストレス応答や発生におけるSAPKによるATF-2の活性化生物学的意義を明らかにするため、ショウジョウバエホモローグdATF-2を用いて解析を行った。dATF-2のC末端側のdZIP DNA結合領域のみをdominant negative(DN)型として幼虫期に発現させ、NaClを含むosmotic stress培地にてストレス応答を解析した。野生型はosmotic stressに対して抵抗性を示し正常に発生するのに対して、DN型dATF-2を発現する個体は致死性が40%上昇した。p38のkinase欠損変異型とDN型dATF-2を共発現する個体では、その致死性はさらに60%まで上昇し、また、DN型dATF-2によるstress致死性はdMEKK1を発現させることにより強く抑制された。一方、ショウジョウバエJNKは胚発生期の背部閉塞に必須であるため、dATF-2が背部閉塞に関与しているかをRNAi法を用いて調べたところ、dATF-2やp38の欠損により背部閉塞に異常は認められなかった。さらに、JNK及びp38によるdATF-2のリン酸化実験、並びにレポーター実験を行った結果、p38はdATF-2をリン酸化し転写活性化能を増強したが、JNKはこれらの効果を示さなかった。従って、ショウジョウバエdATF-2はJNKシグナルによる胚発生には関与しておらず、p38によって活性化されるストレス応答に必要な因子であることが明らかになった。
|