研究概要 |
がんの浸潤転移に相関する遺伝子発現の変化の中で、私どもは低分子量G蛋白質と TGFβシグナリングに注目し研究を進めている。Rhoファミリー(Rho,Rac,Cdc42)はアクチン細胞骨格系を制御し、生理的環境下では極性を有する上皮細胞層の形成に重要であるが、非生理的環境下では、がんの浸潤転移能への関与が示唆されている。私どもはRhoファミリー活性制御蛋白質およびTGFβシグナリング関連分子であるがん抑制遺伝子候補#16遺伝子(ヒトLM07ホモログ)の欠損マウスを用いて発がんおよび転移実験を行ない、Rhoファミリーの活性制御機構の破綻と、がんの浸潤転移能の獲得との関連を分子レベルで解析している。低分子量G蛋白質Rhoファミリーの活性制御蛋白質であるRho GDIα、Rho GDIβの欠損マウスを用いて個体発がん研究を行った結果、p53単独欠損マウスと比較して、p53/Rho GDI二重欠損マウスでは胸腺腫の発生が抑制される傾向が認められた。また、TPA/DMBA投与ではRho GDI欠損マウスの表皮細胞で異形成が認められるにとどまり、乳頭腫および扁平上皮がんの発生は認められなかった。Rho GDIα/β二重欠損マウスでは末梢血中の成熟T細胞およびB細胞の減少、未分化好酸球系細胞の増加が観察された。特に胸腺髄質内での未成熟T細胞の貯留が顕著であり、胸腺から末梢血中へのT細胞の移行が抑制されていることが明らかになった。TGFβによって発現が誘導されるがん抑制遺伝子候補#16(ヒトLM07ホモログ)は、肺胞および気管支上皮細胞のapical側およびlateral側で発現するが、極性を失った肺がん細胞では全周囲性に局在し、LM07/#16欠損マウスの肺では上皮細胞の異形成と透過性亢進を示唆する病理組織像が得られた。
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