研究概要 |
放射線抵抗性脳腫瘍細胞に、NF-κBの阻害蛋白であるIκB-α遺伝子を変異型(リン酸化できない型)として導入し、セリン変異型(MO54-S8),チロシン変異型(MO54-Y2)および両変異型(MO54-SY4,T98-SY14)の発現クローンを単離し、以下の知見を得た。 1.放射線抵抗性ではあるが、異なる放射線感受性を示す2種類のヒト脳腫瘍細胞株(MO54およびT98)において、両変異型の発現クローンとそれぞれの変異株およびベクター導入株との放射線感受性を比較すると、両変異型発現クローン(MO54-SY4,T98-SY14)共に放射線感受性化を示した。 2.NF-κBはいくつかの遺伝子発現を制御していることが知られており、変異型IκB-α遺伝子導入株について、放射線照射後の細胞内シグナル伝達、特に放射線応答として顕著なp53蛋白誘導を調べた結果、M054-SY4(正常p53)で約3倍の発現増大が観察された。一方、変異型p53を有するT98-SY14では、放射線照射によるp53の誘導は認められなかった。 3.プロテオソーム阻害剤のALLNを処理し、放射線照射した場合、親株とM054-Y2で放射線増感効果が観察された。一方、セリンのリン酸化が阻害されているMO54-S8ならびにMO54-SY4ではその感受性に有意な変化は認められなかった。 4.放射線照射(4Gy)によるアポトーシスの誘発について調べた結果、親株およびMO54-SY4共にアポトーシス出現頻度が増加した。アポトーシス増加の程度は親株に比べてMO54-SY4がほぼ1.5倍上回った。 5.X染色体上のHPRT遺伝子座を標的とした放射線誘発突然変異については、親株、ベクター導入株およびそれぞれのIκB-α変異遺伝子導入株で頻度上昇は観察されたが、これらの細胞株で突然変異誘発頻度の程度に有意な差は観察されなかった。
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