研究課題
本研究は、タンパク質とRNAという異なる素材の生体高分子の間の「分子擬態」(研究分担者・中村ら発見)という概念と、研究代表者が既に実施しているタンパク質への特異的な結合性を付与するRNA分子(RNAアプタマー)を取得するSELEX法を組み合わせて、近年がんとの関連性が指摘されている翻訳開始因子(eukaryotic Initiation Factor、eIF)に特異的に結合し、がんの診断・治療に応用できる新規のRNA創薬を目指すものである。本年度の研究より、eIFをターゲットに、タンパク質精製→SELEX→アプタマーの取得→生化学的解析というラインを確立し、複数種類のRNAアプタマーを取得した。これらのアプタマーは標的タンパク質の機能を阻害し、in vitroでのタンパク質翻訳を阻害した。さらに、アプタマーをリポフェクション法で培養細胞に導入し、細胞内での翻訳阻害効果も確認する事ができた。また、アプタマーによる共沈実験により、培養細胞破砕液より標的タンパク質を特異的に検出できる事が分かった。さらにアプタマーと標的タンパク質の結合様式の解析結果から、RNAアプタマーはその配列全体でかなり広範囲の標的タンパク質の構造を認識している事が示唆されてきた。このことは、変異により構造変化を伴って疾病につながるような原因因子に対して、変異型と野生型のタンパク質を識別する事が可能なアプタマーを作製すれば、より副作用の少ない薬の開発につながると考える。以上より、本研究によりRNAアプタマーを用いた診断薬、治療薬の開発については、実用化の為に解決すべき問題は多いが、feasibility studyとして、その可能性を十分に示す事ができたと考える。
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