本研究は、正常細胞とがん細胞を見分け、がん細胞のみで機能するPDT(Photo Dynamic Therapy)型抗がん剤を開発することを目的としている。昨年度までに、diiodofluorescein(FI2)誘導体の光増感能は分子内光誘起電子移動(PeT)により制御可能であることを、種々の化学酸化系、一重項酸素由来の特異的発光観測系などを用いて明らかにした。本年度は、上記知見を用いて設計した高機能型光増感剤により、生細胞系への酸化ストレス負荷も制御可能であるかどうかを、複数の培養細胞系を用いて検討した。まず生細胞へ増感剤をロードする目的で、各FI2類を細胞膜透過型であるジアセチル体へと変換した。次にこれらの化合物を、濃度を振ってHeLaなどの培養細胞系に適用し、光照射による細胞障害能をMTTアッセイにより評価した。その結果、化学酸化系において光増感能が抑制されていたニトロ基、アミノ基を導入したFI2類では、生細胞系への光依存的な障害能も顕著に抑制されることが明らかとなった。またアミノ基のアミド化によって細胞障害能の回復が見られる点も、化学酸化系で得られた結果とよく一致するものであった。さらに同様の結果が広範な細胞種においても確認されたことから、PeTによる光増感能の制御は生細胞系でも機能することが明確に示された。今年度得られた結果は、増感団自身には化学的変化を加えることなく、その近傍に存在するコントロール部位の電子密度変化を変化させることで、生細胞への酸化ストレス負荷を制御することが可能であることを初めて示したものである。現在得られた知見を活用し、がん細胞中の特徴を検知して初めて機能を発揮する増感剤や、PDT治療後速やかに機能の消失する増感剤のデザイン・開発を鋭意行っている。
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