研究概要 |
放射線治療において、その治療効果は放射線による直接的な癌細胞の致死効果と放射線に対する癌細胞の応答現象を介した間接的な致死効果(Bystander効果)の総和として現れてくると考えられる。我々は、変異型p53細胞においてのみ放射線照射及び加温により誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の蓄積誘導が起こり、変異型p53細胞から放出されるNOラジカルが正常型p53細胞に作用して放射線及び温熱抵抗性を誘導することを見出した(Cancer Res., 59 : 3239-3244, 1999 ; Radiat. Res., 155, 387-396, 2001)。また分割照射すると、正常型p53細胞においてもiNOSの誘導が起こり、NOラジカル産生量の増大が認められた。本研究はNOラジカルによる放射線誘発Bystander効果の発現機構を解明すると共にNOラジカルの放射線治療効果への寄与について明らかにすることを目的とした。 【材料と方法】 1.細胞:ヒト神経膠芽腫細胞A-172(正常型p53保有)及びその変異型p53遺伝子導入細胞A-172/mp53を用いた。 2.高線量率×線照射(急照射):線量率1Gy/minで総線量1〜5Gyを照射した。 3.低線量率ガンマ線照射(緩照射):京都大学放射線生物研究センターの装置を用いて線量率0.001Gy/minで総線量1.5Gyを照射した。 4.細胞生存率の測定:コロニー形成法により行った。 5.iNOS、p53及びHdm2の蓄積誘導:ウェスタンブロット法により検討した。 【結果】 1.急照射された変異型p53細胞由来のNOラジカルを介したバイスタンダー効果による正常型p53細胞でのp53の蓄積誘導に緩照射は影響しなかったが、その衰退が促進された。このp53の衰退促進はHdm2の蓄積誘導及び活性化によることが示唆された。 2.緩照射に引き続く急照射により正常型p53細胞においてもiNOSの蓄積誘導及びNOの放出が認められた。 3.緩照射に引き続く急照射に対する正常型p53細胞の生存率は、急照射単独のそれに比べ有意に高く、放射線適応応答の一因がNOラジカルによる放射線誘発Bystander効果出あることが示唆された。
|