染色体DNA末端の短い塩基配列の繰り返しで構成されるテロメア長を保つ作用を持つ酵素テロメラーゼは、きわめて多くの癌細胞でその活性の上昇が知られている。構成分子hTERTの発現とテロメラーゼ活性が相関することが明らかになっており、多くの癌細胞ではhTERTプロモーターのスイッチがオンになり、その下流に組込まれた遺伝子が発現すると考えられる。アデノウイルスの増殖に必要なE1A遺伝子とE1B遺伝子をIRES配列で結合した発現カセットをhTERTプロモーターにより選択的に発現するTumor-specific Replication-competent Adenovirus(TRAD)を作成した。各種ヒト癌細胞においてテロメラーゼ活性は陽性であり、一方、線維芽細胞などの正常細胞では陰性であった。実際に、ヒト大腸癌細胞SW620およびヒト肺癌細胞H1299にTRADを感染させると、mRNAレベルおよび蛋白質レベルで選択的E1発現が認められた。それに一致して、TRAD感染後3日までに各種癌細胞においては10^5-10^8倍のウイルス複製増殖が認められたが、正常細胞では100-1000倍に抑えられていた。癌細胞では1 multiplicity of infection(MOI)のTRAD感染で、3日以内にcytopathic effect(CPE)が誘導され完全な細胞死が観察されたが、正常細胞ではTRAD感染後7日目でも細胞数の減少はみられなかった。ヌードマウス背部皮下に移植したH1299ヒト肺癌腫瘍にTRADを局所投与したところ、有意な増殖抑制が認められた。今後、TRADの生体内分布、免疫反応、各種抗癌剤との併用効果とその作用機序などを検討していく。
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