本研究では、時計遺伝子を基盤にした細胞動態の日周リズムの成因解明と診断法を開発することを目的とし、以下の実験を行った。腫瘍細胞および正常骨髄細胞を対象として細胞動態の日周リズムの成因を時計遺伝子、周期的に変動する遺伝子群やステロイドの日周リズムの側面から検討し、生体リズムマーカーとしての可能性を探索した。自由摂食摂水・明暗周期(明期:0700-1900)条件下で飼育した腫瘍細胞移植マウスを対象に0900、1300、1700、2100、0100、0500の6時点に組織および血液を採取し、時計遺伝子など周期的に変動する遺伝子を測定した。また生理的パラメーターを測定し、細胞動態の日周リズムを規定する因子を上記パラメーターの中から抽出した。次にこれらの実験から抽出された細胞動態の日周リズムを規定する因子がリズムマーカーとして妥当であるか否かを評価した。すなわち、抽出された因子が生体内環境を操作することにより、如何に変容するかを検討した。生体内環境の操作方法として、時間制限摂食を使用した。摂食条件としては、1日をとおして自由に摂食可能な群(自由摂食群;主として暗期に摂食する)、1日の中で特定の時間(0900-1700)にのみ摂食可能な群(明期時間制限摂食群)の2条件を設定した。腫瘍細胞および正常細胞におけるインターフェロンレセプター遺伝子発現およびDPD発現の日周リズムの成因として時計遺伝子やグルココルチコイドのリズムが関与していることが明らかとなり、ルシフェラーゼアッセイの結果とも一致した。塩酸イリノテカンの抗腫瘍効果も細胞動態の日周リズムと関連して変化することが明らかとなった。摂食条件を繰り返し操作することにより、グルココルチコイドや時計遺伝子の日周リズムの位相は約12時間シフトした。それと関連して細胞動態、レセプターや標的酵素の日周リズムもシフトした。以上の結果から、時計遺伝子やステロイドなどの生体リズムマーカーをモニタリングすることにより薬物治療の個別化に貢献できると思われる。今後、これらの機構を分子生物学的に解明していく予定である。
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