研究概要 |
哺乳類を中心とする多くの脊椎動物中枢神経系において、神経核は多くの場合比較的小型の多種の細胞により構成され、構築も複雑である。一方、ある種の硬骨魚類(本研究で用いたのは主にカワハギ)に存在する「第3型糸球体核」は視覚性の入力を受け視床下部下葉に投射する機能的に興味深い神経核で、構成細胞種が少なく(2種)、明瞭な層状細胞構築を持ち、また巨大なシナプス後樹状突起を含むという形態学的特徴をもち、神経核機能の解析の為の優れたモデル系になる可能性がある。本年度は従来のデータをもとにして、糸球体核大型細胞の細胞体におけるlow-passフィルター特性が細胞のどのような性質によるのかを膜電位固定法で調べた。Na^+チャネルの解析を膜電位固定下で行った結果、大型細胞のNa^+チャネルは特に-80mV前後で極めて大きな不活性化からの回復の時定数(τ_h)を持つこと明らかとなった。シュミレーションプログラム上でこのNa^+チャネルの再構成を行った結果、大型細胞の基本的な単発発火特性及びフィルター特性が再現できた。一方、当研究室では終神経GnRH系と呼ばれるペプチド系に関して研究を進めており、それらが脳全体に広く投射して神経作用を及ぼす重要な神経系であるということがわかっている。これらの従来の研究を元に、次に、上記のように生理学的解析を行った2種の構成細胞について,神経細胞の興奮性や神経伝達に対する修飾作用を持つと考えられるGnRHペプチドの影響を解析することにした。まず,免疫組織化学によりカワハギのGnRH神経線維の糸球体核付近における分布を調べたところ,それらが神経核の周囲に比較的豊富に存在する,という結果を得た。また、in situ hybridizationを用いて他種の硬骨魚類の脳で調べたところ、GnRH受容体mRNAが糸球体の2種のニューロンに発現していることが分かった。一方、GnRHペプチドのCa^<2+>チャネルに対する神経修飾作用を調べると、NおよびRタイプチャネルで顕著に効果があることが分かった。これらのチャネルは糸球体ニューロンに入力するシナプス終末の伝達物質放出に係わることが予想されることから、今後はGnRHペプチドの糸球体シナプスに対する神経修飾作用を解析して行く予定である。
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