研究概要 |
本研究では、嗅覚系における神経回路形成の分子機構を理解する為、マウス嗅覚受容体(odorant receptor ;OR)遺伝子MOR28クラスターを含めた複数のクラスターに関して、ORを発現する嗅細胞の投射先を解析した。その結果、"同一クラスター上に隣接して存在し、相同性の高いOR遺伝子ファミリーを発現する嗅細胞は、嗅上皮において同一ゾーンで類似した匂い分子を受容し、嗅球において局所的な糸球ドメインに軸索投射する"ことが示唆された。その一例を示すと、MOR28遺伝子クラスターは6つのメンバーから構成され、アミノ酸配列の相同性から、二つの異なるファミリー、MOR28,10,83(ゾーン4)とMOR29A,29B,30(ゾーン1)に分類される。また、前者の細胞は、嗅球において腹側後方の、後者の細胞は、背側前方の局所的な糸球ドメインへ軸索投射していることが判明した。同様な傾向は、他のクラスターについても見られたことから、OR遺伝子の染色体上での連鎖(linkage)と、嗅球上での投射先の位置の間に一定の相関性のあることを示唆するものであり、匂い地図形成の遺伝学的基礎を理解する上で極めて有用であると考えられる。更に、どの様な種類のORを発現する嗅細胞が、MOR28に対する糸球近傍に軸索投射するのかを知る為、同一ゾーンで発現するOR遺伝子ファミリーに関して、嗅球における投射先を、in situ hybridization法とlaser micro-dissection法を用いて検討した。これ迄の解析から、必ずしもMOR28ファミリーと相同性の高いOR遺伝子ファミリーを発現する嗅細胞が、MOR28糸球近傍に軸索投射しているわけではないことが判明した。そこで更に、どの様なパラメータが、MOR28糸球近傍への投射に関与しているのかを知る為、それら近傍の糸球に対応するORの、嗅上皮における発現様式を解析した。その結果、興味深いことに、これ迄提唱されていた嗅上皮の四つのゾーン構造がORに依存してサブゾーンに細分化されること、及び、嗅上皮でのOR発現サブゾーンが、嗅球での投射サブゾーンに対応して、大まかな投射位置を規定することが明らかになった。
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