研究概要 |
哺乳動物の脳が形成される際には、神経細胞は主に脳室領域(脳の内側)において運命決定され、順次表層側へ移動していく。3,461アミノ酸残基からなる巨大分泌蛋白質リーリン(reelin)はこの神経細胞移動を司る分子であり、その遺伝子変異はマウス・ヒトの両者において脳の形成異常を引き起こす。一般にリーリンは、神経細胞上に存在する受容体(リポ蛋白質受容体ファミリーに属する、ApoE受容体及びVLDL受容体)に結合して、細胞内蛋白質Dab1のリン酸化を引き起こし、それがさらに下流シグナルへつながると考えられている。しかし今日に至るまでそのような下流分子は見つかっておらず、リーリンによるシグナル機構の実体は依然として全く不明である。生体内(脳)や培養細胞上清中で、リーリンの多く(全体の4〜8割程度)が分解産物として存在することは既に知られている。申請者はリーリン分子の変異体や、エピトープタグを挿入したものを作製し、それらの分解や抗体反応性を調べた。その結果、リーリンには二ヶ所の特異的分解部位が存在することを見いだした。 また、リーリンを切断するプロテアーゼに関しては、メタロプロテアーゼによるという説と、リーリン自身がセリンプロテアーゼであるため自己触媒的に分解するという説がある。後者の可能性を確認するため、活性セリン残基とされる部位を他のアミノ酸で置換した変異体を作製し、その分解を調べたところ、野生型リーリンと全く変化が認められなかった。一方、初代培養神経細胞の培養上清によってリーリンの分解は促進され、それは亜鉛キレーターで阻害された。よって、後者の可能性は否定され、前者の説が正しいと思われる。
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