<目的> 内因性カンナビノイドは、脳の様々な領域において逆行性シグナルとして働いている。シナプス後ニューロンから放出され、それがシナプス前終末に存在するカンナビノイド受容体を活性化し、神経伝達物質の放出を抑制する。また、シナプス可塑性の誘導にも関与していることが報告されている。本研究では、培養海馬ニューロンを用い、内因性カンナビノイドの放出メカニズムについて詳しく検討した。 <方法> ラットおよびマウスの海馬ニューロンを単離培養し、ニューロン・ペアよりIPSCを記録し、IPSCの振幅の変化を指標にしてシナプス後ニューロンからの内因性カンナビノイドの放出量を測定した。また、phospholipase C(PLC)産物であるジアシルグリセロールにより活性化されるTRPC6チャネルを強制発現させ、生きた細胞1個のPLC活性をリアルタイムでモニターした。 <結果および考察> (1)Gq共役型受容体(group I代謝型グルタミン酸受容体など)の活性化と脱分極が同時に起こると内因性カンナビノイドが多量に放出された。 (2)受容体活性化による内因性カンナビノイドの放出はPLCβ1欠損マウスでは消失していた。 (3)受容体活性化により引き起こされる内因性カンナビノイドの放出は、細胞内Ca^<2+>濃度に強く依存していた。 (4)TRPC6電流を指標としてPLCβ1活性を調べたところ、受容体を介するPLCβ1の活性化が細胞内Ca^<2+>濃度に強く依存し、また、脱分極によるCa^<2+>濃度上昇により著しく増強されることが示された。 以上より、内因性カンナビノイドの合成・放出の律速酵素と考えられるPLCβ1が、生理的範囲において強いCa^<2+>依存性を示すため、細胞内Ca^<2+>濃度上昇と受容体活性化が同時に起こると強く活性化され、多量のカンナビノイドが放出されると考えられた。
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