大脳皮質は6層からなる細胞層を持ち、神経回路はこの層構造に基づいて構築されている。すなわち、入力線維は特定の層でシナプス結合を形成し、単に出力線維の起源となる細胞は標的に依存して特定の層に分布する。本研究では層特異的に発現する細胞表面分子や細胞外マトリックス分子を同定し、その形態的あるいは機能的意義を解析することを目指した。 これまでに我々は層特異的な遺伝子探索を行ったが、それに加えてモノクローナル抗体法を用いる解析も並行して進めてきた。その内の6C9抗体は発生期の視床-皮質間の投射経路に強い発現を示すものであった。その抗原を同定するために、6C9抗体のアフィニティーカラムを作製し、発生期脳をホモジェナイズした膜分画(可溶化)を加えて溶出させた。その結果、SDS-PAGEにおいて分子量約8万のシングルバンドが得られ、さらにアミノ酸分析装置により配列を解析したところ、6C9抗原はT-cadherin(CD13)と呼ばれるカドヘリンファミリーに属する膜タンパクであることが判明した。次に、T-cadherinのISHを行ったところ、そのシグナルは視床に加えて、大脳皮質5層の一部の細胞に特異的に発現することが明らかになった。 このように、T-cadherinは皮質下位神経核投射に関わる5層細胞や視床に特異的に発現することが明らかになり、軸索の束化などに関与し、皮質視床あるいは視床皮質投射の形成に一役かっていることが示唆された。
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