研究概要 |
キイロショウジョウバエの複眼は約800個の個眼から構成され、その中には8種類の光受容細胞(R1-R8)が存在している。これらは受容する光波長の違いや形態的な特徴から次の2つに大別できる。(1)外側光受容細胞(R1-R6)はRhodopsin 1(Rh1)を発現することで物体のイメージ形成に必要な波長の光を受容し、神経軸索を脳薄層(ラミナ;lamina)に投射する。(2)内側光受容細胞(R7,R8)は主に色覚情報を与えるとされ、yellow typeはRh4を発現するR7(Rh4-R7)とRh6-R8によって、pale typeはRh3-R7とRh5-R8によって構成され、軸索を脳髄層(メダラ;medulla)に投射する。defective proventriculus(dve)遺伝子は、視覚認識行動異常の原因遺伝子として同定されたホメオドメイン転写因子である。まず、ショウジョウバエ視覚神経系発生の初期(3齢幼虫〜蛹初期)のラミナと、後期(蛹中期〜成虫)の複眼においてDveを発現する細胞を確認した。前者はラミナニューロンの前駆細胞由来でありながら神経細胞には分化せず、また既知のグリア細胞とも一致しないため、これらの細胞群をDPL(Dve-positive cell in lamina)と呼ぶことにした。蛹初期にDPLを除去した成虫個体ではラミナニューロンの数が減少したことから、DPLは神経前駆細胞の性格を保持し、蛹発生中にラミナ神経系を構築する(新規ニューロンの産出、あるいは既存ニューロンの生存を制御する)未知の細胞群である可能性が示唆された。 複眼におけるdve遺伝子発現はR1-R7で検出されたが、dve変異複眼では外側光受容細胞に関する異常は確認できなかった。一方、内側光受容細胞では、全てのR7がRh3を、R8がRh6を発現していた。これは、dve変異によりyellow、type、pale typeのロドプシン発現パターンに異常が生じたことを示している。 以上の結果から、Dveは外側光受容細胞が受容したイメージ情報を中継するラミナの神経系を構築するDPLにおいて何らかの機能を果たすとともに、内側光受容細胞の機能的分化を制御する因子であることが明らかとなった。
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