哺乳類の大脳皮質は、脳表面に平行な6層からなる見事な多層構造を形作っている。この構造が乱れると、構成要素としての細胞は揃っていても、脳のシステムとしての機能は異常になってしまうことから、このように整然とした配置をとることは、機能的にも重要な意義を有すると考えられている。これら大脳皮質神経細胞の多くは、脳室に面した脳室帯で誕生し、脳表面へと放射状に移動していく。そして、髄膜直下の辺縁帯に存在するカハール・レチウス細胞から細胞外に分泌されるリーリン(Reelin)分子の働きにより、移動細胞は辺縁帯直下でその移動を停止すると考えられている。リーリンは、脳の発生過程において、移動神経細胞の表面にある受容体に結合後、細胞内のDab1蛋白質の特定のチロシン残基のリン酸化を誘導することによって、その細胞の配置を制御する。しかしながら、これまでに報告されているリーリン受容体は、いずれもチロシンキナーゼ活性を持たない事から、細胞外シグナルであるリーリンが、細胞内蛋白質であるDab1のチロシンリン酸化をいかにして誘導するかのメカニズムについては、全く不明であった。本研究では、1)細胞外に分泌されたリーリンは2量体を形成して受容体に結合すること、2)リーリンが受容体に結合すると、細胞内のDab1が細胞膜上のラフトドメインに移行すること、3)ラフトドメインに移行したDab1は高度にリン酸化されていること、4)細胞内Dab1のチロシンリン酸化の誘導はSrcファミリーのチロシンキナーゼによりなされること、5)ラフトドメインの破壊により、リーリンによるDab1のリン酸化が阻害されること、6)リーリン非存在下であっても、Dab1を強制的にラフトドメインに局在化させることにより、Dab1のチロシンリン酸化が引き起こされることを明らかにした。
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