発生過程において、神経幹細胞の個性は常に一定ではなく時間とともに変化していく。このため、一つの幹細胞は多様な子孫神経細胞を一定の順番で作り出すことができる。ショウジョウバエの神経系形成の前半過程において、ほぼ全ての幹細胞が、Hunchback、Kruppel、Pdm、Castorという4種の転写因子を順次発現し、これらの転写因子の発現を自律的に切り替える。しかし、Castor発現開始以降も神経幹細胞は胚発生期だけでも10回程度分裂するにもかかわらず、発生後期における神経幹細胞の時間変化についてはほとんど謎であった。本研究では、まず、転写因子の発現パターンにもとづいて時期特異的に発現される遺伝子を検索する過程において、Castor発現開始以降に神経幹細胞において一過的に発現される一群の転写因子を同定した。次にCastor発現以降8回程度の分裂について、それらの転写因子の正確な発現順序を明らかにした。この結果に基づいて、現在胚発生後期ににおける時間変化の分子メカニズムの探究を進めている。これまでのところ、Castorが後期の時間変化の進行全般に必須な非常に重要な因子であることを明らかにしている。 胚発生が終了すると、腹部の神経幹細胞は死滅するのに対して、脳と胸部の神経幹細胞の多くは、長い休止期に一旦入った後、幼虫期に分裂を再開し、一幹細胞あたり平均100個にも及ぶ神経細胞を産出する。本研究では、幼虫型神経幹細胞の時間変化についても解析を開始した。幼虫型神経幹細胞においても胚性型と同様な後期特異的転写因子の発現推移が認められた。すなわち、これら2種の神経幹細胞の時間変化は同じような内在性のメカニズムによって制御されることがわかった。また、胚性型から幼虫型への変換と時期特異的転写因子の発現切り替えとの間に強い連携があることを示唆するデータも得ている。
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