研究課題
我々は、ケイジドグルタミン酸を2光子励起法で活性化する手法により、海馬錐体細胞において、機能的AMPA受容体発現とスパイン形態に強い相関があることを見出してきた。本研究では、神経回路の調節という観点から、スパインとともに軸索終末の形態も詳細に実時間観察し、2光子励起ケイジドグルタミン酸を用いて単一シナプスで可塑性を誘発し,シナプス形態がどのように長期的に安定するのか、その形態依存性の法則を見出すこと、また可塑性として、長期増強のみならず、長期抑圧の現象においても、スパイン形態と機能の連関性を明らかにすることを目的とする。まずシナプス後部のスパイン形態について詳細に検討するため、培養海馬スライス標本にGFP遺伝子を導入して長期間にわたって形態観察を行うことを可能にした。さらに、GFP発現した錐体細胞のスパインに2光子励起法によるケイジドグルタミン酸の頻回刺激を行い、同時に形態変化を追跡した。その結果、反復刺激直後に、刺激したスパインおよび周辺スパインの頭部の肥大化が見られた。半数の例では、形態変化は可逆的で30分ほどで元に戻るが、残りの場合には刺激したスパインにほぼ限局した頭部の肥大が2時間以上持続することが見出された。この形態可塑性は、スパインの初期形態に依存し、スパイン頭部のやや小さいものに強い。スパイン頭部の肥大化はNMDA受容体阻害剤、カルモジュリン阻害剤、およびアクチン重合阻害剤によってほぼ完全に阻害された。シナプス前線維のデタヌス電気刺激によっても、一部のスパイン頭部に同様な形態変化が起こることから、この現象はシナプス可塑性に重要な役割を担っていることが示唆された。さらに穿孔パッチした錐体細胞において脱分極と2光子励起ケイジドグルタミン酸法を組み合わせることで、刺激スパインのみでAMPA受容体反応を増強させることに成功した。AMPA受容体反応が増強される場合、形態の増大も伴い、また頭部肥大が起こらない場合、AMPA受容体反応も増強されないことがわかった。この結果は、AMPA受容体の機能発現とスパイン形態が、可塑性の過程においても強く連関することを示している。さらに、このスパイン頭部の肥大は数日に及んで持続するものもあるが、現在解析をすすめている。また、刺激頻度を変化させたり、細胞外カルシウム濃度を変化させることで、スパインの矮小化、またはスパインの消失が見られている。より生理的条件に近づけるため、現在、ケイジドグルタミン酸によるスパインの刺激と、そのスパインを持つ細胞を電気刺激し細胞の脱分極を誘発することを、同時に行うことを試みている。
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