脊椎動物の網膜では、特定の機能を持った神経細胞は決められた位置に配置され、特徴的な層構造を形成している。発生過程において、多分化能を持つ網膜前駆細胞は神経上皮の内腔面側で最終分裂を行って各種神経細胞を生み出すが、その際、生み出された細胞の種類によってその後の振る舞いが異なることが知られている。たとえば神経節細胞と錐体細胞は同じような発生時期に生み出されるが、前者が最終分裂後神経上皮の基底膜側に移動してゆくのに対し、後者は内腔面側に留まる。本研究は、このような、神経細胞の種類ごとに異なる振る舞いの違いがどのような分子機構によって制御されているのかを調べるために、それぞれの細胞で特異的に発現している遺伝子を同定することを試みている。 まず、胎生13.5日目のマウスの網膜を単一細胞にばらばらにした後に、FACSを用いて単一細胞を96穴プレートに単離した。次に、それぞれの細胞から定量的PCR法を用いてcDNAを合成し、それぞれの細胞で発現しているマーカー遺伝子をサザンブロット上で検出した。分裂直後の神経節細胞、および錐体細胞はそれぞれMath5やCrxといったマーカー遺伝子を発現していることが知られており、そのほか複数のマーカーの組み合わせにより、それぞれの細胞を遡及して同定することに成功した。次に、これらの細胞で特異的に発現している遺伝子を調べるために、それぞれの細胞から合成したcDNAを用いてサブトラクションPCRを行った。その結果、神経節細胞特異的に発現している遺伝子を28種類、錐体細胞特異的に発現している遺伝子を38種類同定することができた。これらの半数以上は機能が未知の遺伝子であり、現在それらの遺伝子の発現パターンをin situハイブリダイゼーション法を用いて解析しようとしている。
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