研究概要 |
シナプス後部の樹状突起には、スパインと呼ばれるアクチン細胞骨格に富んだ微小突起構造体が存在し、その形態は神経活動や記憶の細胞レベルでの現象と考えられる長期増強に伴って変化する。従って、スパイン形態変化はシナプス可塑性において重要であると推察されているが、スパイン形態制御の分子メカニズムは不明な点が多い。ホスファチジルイノシトール4-リン酸5-キナーゼ(PIP5K)は、その産物ホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP_2)を介してアクチン細胞骨格の再構築を制御するため、本酵素がスパインの形態制御に関与する可能性が十分考えられる。そこで、本研究ではこの点についての解析を行った。 三種のPIP5Kアイソザイム(α、β、γ)のうち、野生型PIP5Kβを海馬神経細胞に過剰発現させるとスパイン数が顕著に減少し、一方、活性欠失型PIP5Kβを発現させるとスパイン数は増大した。我々は低分子量Gタンパク質のARF6がPIP5Kを直接活性化することを見いだしている。そこで、スパイン形態制御においてARF6がPIP5Kβの上流で機能しうるかを解析するため、活性型ARF6(ARF6-QL)とドミナントネガティブARF6変異体(ARF6-DN)の海馬神経細胞のスパイン形態に対する影響を検討した。その結果、ARF6-QLを海馬神経細胞に強制発現させると、野生型PIP5Kβと同様にスパインの数は減少した。一方、ARF6-DNを強制発現させると、活性欠失型PIP5Kβと同様にスパイン数は増大した。 以上の結果から、スパイン形態制御シグナル伝達において、ARF6→PIP5Kβシグナリングがスパイン数を負に制御しており、シナプス可塑性への本シグナル経路の関与が期待される。
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