研究概要 |
ゲノム上には、蛋白質をコードする遺伝子の他に、転写はされるが蛋白質をコードせず、RNAそのものとして機能する非翻訳型RNAが多く存在し、生命現象の重要な機能を有している。リボソームRNAやtRNA、あるいは、真核生物のスプライシング過程において働くsnRNA(核内小RNA)は、機能が十分に明らかにされた非翻訳型RNAであるが、様々な生物種において、ゲノム解析が進むにつれ、これまでの予想を超える数の非翻訳型RNAが存在することが明らかとなってきた。大腸菌においても、30種類の非翻訳型RNAが同定されているが、これらの多くは菌の生育に必ずしも必須ではなく、外部環境の変化に対応するための応答反応を主に制御している。 BS190 RNAは、枯草菌において同定された安定かつ、大量に存在する非翻訳型RNAである。本研究では、遺伝子破壊株を用いた解析を行い、機能解析を行った。DNAマイクロアレイ解析の結果、BS190 RNA遺伝子破壊株では、6個の遺伝子の発現が野生型と比べ、20倍以上に上昇していた。これらの遺伝子はすべて同一のオペロン上に存在し、分岐状の側鎖を持つアミノ酸(Ile,および、Val, Leu)の生合成に関与している。さらに、BS190RNAは、このオペロンのプロモーター下流のリーダー配列と10塩基の相補配列を2ヶ所持ち、ゲルシフト解析の結果、mRNAのリーダー配列と相互作用することが明らかとなった。以上の結果より、BS190RNAは、5'リーダー配列と相互作用することにより、転写レベルで負に発現制御することが示唆された。これまで、非翻訳型RNAの機能については、翻訳レベルでの報告に限られており、転写レベルでの機能を示した最初の報告として、本研究は意義深い。また、同時に進行しているほかの非翻訳型RNAの解析からも、アミノ酸や2次代謝産物の生合成に関与する非翻訳型RNAが存在していた。
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