生殖細胞の発生分化に関わるRNA情報発現ネットワークを探る目的で私がクローン化した2つのRNA結合タンパク質の機能解析を引き続き行い、今年度は以下のような成果を得た。 CPEB2 CPEB2は減数分裂後の精子形成過程のRNA翻訳制御に関わる制御因子と考えられている。この同定に使っている私が樹立したモノクローナル抗体は、ウエスタンブロット法には使えるが、その他の生化学的、組織学的研究には適していない。そこで、今年度はこれらに使用可能なモノクローナル抗体の樹立に精力を注いだ。抗原として、大腸菌で発現させた全長タンパク質と2種類の部分タンパク質の他、CPEB2のC末端ペプチドを合成し、これらをマウスに免疫して多くのモノクローナル抗体を樹立した。しかし、いずれもウエスタンブロットには使えるが、その他の実験に使える抗体を得ることが出来なかった。そこで、現在は別の領域の領域のペプチドを合成し、マウスの他ハムスターへの免疫を開始している。 Mrp1 Mrp1は減数分裂後の精子細胞で核から細胞質へのmRNAの運搬に働くRNA結合タンパク質と考えている。しかし、今年度の研究から生殖細胞だけでなく精巣のセルトリ細胞や脳のプルキンエ細胞をはじめとする数種類の細胞の核に発現していることが明らかになった。これらの結果から、今後は細胞培養系などを駆使してMrp1の機能解析に着手できることがわかり、今後の発展が期待される。また、私はすでに精子形成過程後期に、Mrp1が核から細胞質へ移行する現象を観察していたが、この時期特異的な細胞質移行に微少管チューブリンのモータータンパク質Kifl7bが必要であることを明らかにした。モータータンパク質がRNA結合タンパク質の核-細胞質移行に如何に関わるのかは興味深い点であり現在解析を進めている。さらに、今年度免疫沈降法に利用できる非常に優れたモノクローナル抗体の樹立に成功した。その結果、約100kDaの未知タンパク質がMrp1と共沈することを明らかにした。現在、このタンパク質の同定を進めている。 これら一連の研究成果は二報の論文としてすでに公表、あるいは受理されている。
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