真核生物RNAポリメラーゼII(Pol II)の最大サブユニットC-末端領域(CTD)は、種々のCTDキナーゼによってリン酸化されることにより、mRNA前駆体の転写とプロセシングのカップリングの制御に関わっていると考えられている。本研究は、転写とmRNAプロセシングを協調させている核内分子機構にアプローチするために、リン酸化CTDに結合するヒト新規因子の同定とその機能解析を行うことを目的にしている。これまでに新規核蛋白質PCIF1やペプチジルイソメラーゼPin1等、数種のWWドメイン蛋白質をリン酸化CTD結合因子として同定して来た。本年度は、PCIF1の機能検索を中心に研究を行い次のような結果を得た。(1)生化学的な解析のため組換えヒトPCIF1タンパク質の発現・精製を試み、(i)大腸菌発現ヒトPCIF1タンパク質の精製、(ii)ヒトPCIF1発現バキュロウイルスの作製、(iii)TAP(Tandem Affinity Purification)タグを持つPCIF1の発現誘導ヒト細胞株の樹立、を行った。(2)トリB細胞株DT40を用いたジーンターゲッティングを行い、PCIF1遺伝子をホモにノックアウトした細胞株およびテトラサイクリン添加によってトリPCIF1遺伝子の発現をオフにできるコンディショナルノックアウト細胞株を樹立した。ノックアウト細胞を使った解析から、(i)PCIF1は細胞増殖に必須な因子でないこと、(ii)PCIF1タンパク質が存在しない条件下で細胞全体のPol IIのリン酸化状態やヒストンH3のメチル化状態に大きな変化はないことが示唆された。今後ノックアウト細胞と野性型細胞の総タンパク質の二次元電気泳動による比較や、mRNA発現のディファレンシャルディスプレイによる比較等、より網羅的な手法を用いた解析を行う予定である。
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