真核生物の線状染色体末端に存在する構造体であるテロメアは、特殊なヘテロクロマチン構造を保っている。分裂酵母やヒトなどの真核生物におけるテロメアやセントロメアのような構成的なヘテロクロマチン領域では、まずヒストンH3のLys9残基がメチル化され、それを認識してヘテロクロマチンタンパク質(ヒトではHP1、分裂酵母ではSwi6など)がヒストンH3にリクルートされる。ヘテロクロマチンタンパク質は染色体の凝縮を直接制御する。本研究では、分裂酵母のテロメアにおいて如何にしてヘテロクロマチン状態が制御されているか調べた。まず、染色体末端に存在するテロメアリピートDNAに直接結合するTaz1タンパク質は、テロメア末端に集中して局在することがわかった。一方、Swi6はテロメア末端部分にはあまり局在せず、染色体内側のTAS領域の広い範囲に局在することがわかった。分裂酵母のセントロメアや接合型遺伝子座位においては、Swi6ヘテロクロマチンの確立にはRNAi機構が関与していることが知られている。しかし、テロメアにおいては、RNAi機構はSwi6ヘテロクロマチンの確立に必要ではないことがわかった。そして、分裂酵母のテロメアにおけるSwi6ヘテロクロマチンの確立には、テロメアリピートに局在するTaz1が必要であることがわかった。また、Taz1に結合するタンパク質であるRap1やRif1は関与していないことも明らかとなった。以上のことから、分裂酵母テロメアにおいては、RNAi機構ではなく、テロメア結合タンパク質Taz1が何らかの形でヒストン修飾酵素をリクルートすることにより、Swi6ヘテロクロマチンの形成に重要な役割を果たしていることが示された。一方、TAS領域にはテロメアヘテロクロマチンによって転写制御されている領域が存在することがわかった。この領域のDNAを鋳型としてRNAi機構が働き、テロメアの何らかの機能制御を行っている可能性について現在検討している。
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