NAT1は翻訳開始因子eIF4GのC末側2/3[以下4G(C)]に類似する蛋白質である。eIF4Gは翻訳開始に必要な因子の機能を統合するアダプター因子である。ある種のウイルスはeIF4Gを切断しホスト細胞の翻訳を停止させるが、切断後に生じる4G(C)はウイルスRNAのinternal ribosome entry site(IRES)依存的な翻訳を促進する。IRESはウイルスRNAに加えて一部のmRNAにも存在するが、昨年度の研究で、NAT1がp27kip1のIRES依存的翻訳を逆に抑制していることを見出した。一方、アポトーシスの際にはカスペースがNAT1のC末を切断し、少し短いp86が産生されるが、p86はAPAF-1などのIRES依存的翻訳を促進することが報告された。4G(C)、NAT1そしてp86がIRESに対して異なる作用を示すのは、結合する蛋白質やRNAが異なる可能性を示唆する。本年度においては4G(C)、NAT1およびp86と結合する蛋白質およびRNAの同定を試みた。これらの蛋白質をTandem affinity purification(TAP)法により細胞から精製し、この際共精製されてくる蛋白質を質量分析により、RNAをDNAマイクロアレーにより解析した。その結果、4G(C)、NAT1およびp86のすべてに他の翻訳開始因子であるeIF4Aが結合していることがわかった。一方、DNAマイクロアレーによる結合RNAの同定は現在進行中であり、いくつかのRNAがNAT1特異的に共精製されていることが示唆されている。
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