根原基の発達から根端分裂組織の確立に至る過程について、シロイヌナズナの温度感受性突然変異体srd2、rid1、rid4、rpd1、rrd2を用いた分子遺伝学的解析を行った。脱分化(細胞増殖能獲得)と分裂組織形成の両方に関わるsrd2変異体に関しては、責任遺伝子SRD2がsnRNA転写活性化因子と思われるタンパク質をコードすることなどをすでに明らかにしていたが、本年度はsnRNA転写がsrd2変異の直接的影響を受けることを示し、SRD2とsnRNA転写との関連を最終的に証明した。rid1はsrd2と表現型の特徴がよく似ている点で注目される変異体であるが、精密染色体マッピングと塩基配列解析を進めたところ、この責任遺伝子RID1の最有力候補としてDDX8様RNAヘリカーゼ遺伝子が浮上した。これらの結果はRNAスプライジング活性の制御が脱分化や分裂組織形成の鍵となっている可能性を示唆するものであり、きわめて興味深い。根原基の発達が温度感受性となるrpd1変異体に関しては、不定根形成誘導時における責任遺伝子の発現を調べ、表現型との対応関係を示した。 細胞増殖の局所的協調に働く正の細胞間作用因子と、細胞増殖の相互抑制に働く負の細胞間作用因子を想定し、負の因子の生成が細胞増殖に依存すると考えて、初歩的な数理モデルを作成した。このモデルによるシミュレーションは、細胞増殖が不活発になる変異体(rrd1、rrd2、rid4)で帯化根が生じやすいこと、増殖能が上昇しない変異体(srd2、rid1)で根端分裂組織が構築されずに根原基が瘤状になることを再現できた。
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