二成分を介したイネ花芽形成信号情報伝達経路の解明

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 15031226
• 研究機関: (独)農業生物資源研究所
• 研究代表者: 井澤 毅 (独)農業生物資源研究所, 分子遺伝研究グループ, 主任研究官 (10263443)
• キーワード: 二成分系信号伝達系 / レスポンスレギュレーター / 光周性 / 花芽形成 / 光信号伝達 / 概日時計 / MADS box遺伝子 / FT遺伝子

研究概要

本研究では、BタイプのレスポンスレギュレーターであるEhd1遺伝子を含む、花成関連二成分信号伝達系の全貌を明らかとし、短日植物イネの花成に関する新規な情報の流れの解明を研究目的としている。
1.Ehd1の各ドメインを欠失したタンパク質を過剰発現するイネ形質転換体を作成し、その開花への影響を短日条件・長日条件で確認した。Ehd1全長を過剰に発現する形質転換体当代は短日条件下で極端な早咲きを示した。また、レシーバードメインを欠失したタンパク質の過剰発現体(IGR-ox)も短日条件下で形質転換体当代が早生となった。その他の一部ドメインを欠くコンストラクトは、顕著な早咲きを示す個体はなく、むしろ、遅咲きの傾向が確認できた。この結果より、Ehd1遺伝子のレシーバードメインは花芽促進には必須ではなく、Ehd1がもつ花芽促進能を調節する機能を有すると考えられる。IGR-oxの後代を短日条件、長日条件で生育したところ、短日条件では期待通り、早咲きを確認したが、長日条件では確認できなかった。このことは、長日条件ではEhd1の花芽形成促進機能が働かないことを示している。
2.T65と機能型Ehd1遺伝子をT65に導入した1-16系統で、マイクロアレイ解析を行い、Ehd1遺伝子の下流の遺伝子の同定を試みた。22Kのマイクロアレイを用いて、約30個の候補クローンを得、RT-PCRにより、Ehd1による発現への影響を確認した。その結果、12の遺伝子がEhd1により、誘導され、5の遺伝子が抑制されることが明らかになった。誘導される遺伝子の中に、花芽形成に関連のあるMADSbox遺伝子が二つあったので、残りの花芽形成関連MADS遺伝子に関しても、マイクロアレイ、RT-PCRで確認したところ、Ehd1により誘導がかかるMADSbox遺伝子を3つ同定した。
3.イネも青色光による花芽形成促進効果があるので、赤色光、青色光の効果をEhd1遺伝子やFT相同遺伝子の発現を指標に解析した。その結果、Ehd1遺伝子はHd1欠損バックグランドで青色で誘導されることが明らかとなった。この結果は、イネに特異的な青色を介した花芽促進が存在することを示唆している。

研究成果

• [文献書誌] Izawa, T., Takahashi, Y., Yano, M.: "Comparative biology comes into bloom : genomic and genetic comparison of flowering pathways in rice and Arabidopsis"Current Opinionin Plant Biology. 6. 113-120 (2003)
• [文献書誌] 井澤 毅: "花芽誘導の分子機構-「花咲じいさん」を探して-"バイオサイエンスとインダストリー. 61. 17-22 (2003)
• [文献書誌] Kaneko, M., Inukai, Y, m, Ueguchi-Tanaka, M., Itoh, H., Izawa, T., Kobayashi, Y., Hattori, T., Miyao, A., Hirochika, H., Ashikari, M., Matsuoka, M.: "Loss-of-function mutations of the rice GAMYB gene impair α-amylase expression in aleurone and flower development"Plant Cell. 16. 33-44 (2004)
• [文献書誌] 井澤 毅: "植物の光周性花芽誘導"時計遺伝子の分子生物学. 125-130 (2004)
• [文献書誌] Doi, K., Izawa, T., Fuse, T., Yamanouchi, U., Shimatani, Z., Yano, M., Yoshimura, A.: "Ehd1, a B-type response regulator in rice, confers short-day promotion of flowering and controls FT-like gene expression independently of Hd1"Genes & Dev. (発表予定). (2004)