BAFは、逆転写されたレトロウイルスDNAのオートインテグレーションを阻害する細胞性の因子として見つけられたタンパク質であり、2本鎖DNAに結合しDNAを架橋し大きな複合体を形成することが知られている。BAFの細胞での機能は明らかでない。私たちはこれまでに哺乳類の系を用いBAFが核膜タンパク質LAP2のLEMドメインに結合することを見いだしている。現在BAFの機能を明らかにするためBAF遺伝子を欠失させたショウジョウバエを作成し解析を行っている。BAFを欠失させた変異体の発生は幼虫の後期または蛹の前期で停止する。このBAF変異体を解剖して組織の形成状態を解析した結果、endoreplicatibonを行う唾腺等の組織の形成は異常が見られないが、体細胞分裂で増殖する成虫原基・脳などの組織形成が著しく阻害されていた。このことはBAFが体細胞分裂の制御に関与していることを示唆する。また分裂組織は分裂期のマーカーであるリン酸化ヒストンH3の抗体で殆ど染色されずまたサイクリンEおよびBも抗体で全く検出されなかったことから、細胞分裂は細胞周期のM期に入る前で停止していると考えられた。分裂組織の核・核膜の構造を核ラミン(Dm0)および核膜孔(Mab414)に対する抗体を用いて観察した結果、核・核膜構造が凝集または胞状化し大きく変形していることや間期核内にヘテロクロマチン様の異常な構造が存在することも明らかになった。さらに、異常な核構造をしている細胞では幼虫の後期でもBrdUの取込みがみられ異常なDNAの合成が起っていることも見いだされている。BAFはDNA結合能や核膜タンパク質結合能を持つタンパク質であることから、細胞周期の制御とともに、クロマチンの構造を形成しクロマチンを核膜にアンカーさせ核の高次構造を形成することにも直接関与する重要な因子であることを示している。
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