研究概要 |
多くの生物において、様々な生理現象の活性が24時間の周期で変動することが知られており、我々はこの細胞内のリズム発振分子機構を「生物時計」と呼んでいる。この生物時計は、地球の自転に伴い24時間周期で繰り返される光や温度などの外部環境の変化に適応するための機構と考えられている。我々は藍色細菌で生物時計の中核遺伝子クラスターkaiABCを同定し、その発現機構を分子遺伝学的に詳細に解析した。今後は生物時計を非常に精巧な分子装置である「生物時計装置」と捉え、生物時計装置を構築する時計タンパク質、時計関連タンパク質の諸性質,物性を生化学的・生物物理化学的・構造生物学的手法を用いて解明する。生物時計装置を構築する部品の一つとして分子シャペロンやプロテアーゼは不可欠である。生物時計に関与する分子シャペロンやプロテアーゼとして、(1)生物時計特異的なタンパク質と(2)既存の分子シャペロンやプロテアーゼが考えられる。今年度は(1)の立場で実験を行った。 ATP依存性プロテアーゼの一つであり、二組のWalker's motif A, Bを有するClpAと構造的類似性のあるKaiCに焦点を当てた。KaiCはADPではなく、ATP誘導的に六量体を形成する一方で、リン酸化反応によりATPをADPに分解する。これら相反する機能を両立する仕組みは、(1)KaiCサブユニットは親和性の異なるATP結合部位を有し、(2)高親和性結合部位への優先的なATP結合が六量体形成を誘導し、(3)高親和性結合部位に結合したATPがリン酸化反応に関与する、であることを明らかにした。ClpAがClpPと相互作用するように、KaiCがClpPと相互作用するかどうかを調べるため、ClpP1,ClpP2,ClpP3をクローニング、発現、精製を行い、結合実験を行ったが、現在のところ相互作用する結果は得られていない。条件の最適化等を行い、更に検討を進める。
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