AAA ATPaseファミリーに属するVCP(別名p97)は、異なるアダプタータンパク質の介在により、オルガネラ膜の形成やユビキチン-プロテアソーム系による異常タンパク質の分解など多様な細胞機能に関与する分子シャペロンである。私たちがVCPの新規アダプターとして同定したSVIP(small VCS interacting protein)は、細胞内で過剰発現させると、ポリグルタミン病などの神経変性疾患において見られるような小胞体由来の空胞の形成を導く。本研究では、VCP-SVIP複合体の役割をERAD(小胞体関連分解)との関連において解明するために、以下の実験系を構築し、小胞体関連分解(ERAD)におけるSVIPの役割を解析した。 1.セミインタクト細胞を用いたin vitro実験系-ヒトサイトメガロウイルスのUS11遺伝子が導入された細胞株では、主要組織適合複合体クラスI抗原重鎖が小胞体から細胞質中へ放出され、プロテアソームによって分解される。この細胞をジギトニンで処理して細胞膜に穴を開け、そこにSVIPタンパク質を添加するとERADが顕著に抑制された。 2.トランスフェクション法によるin vivo実験系-ERADのモデル基質として頻用されているCFTRΔF508変異体を、GFPとの融合タンパク質として、トランスフェクション効率の高いHEK293細胞に安定発現させた細胞株を樹立した。これらのGFP融合タンパク質は、プロテアソーム活性依存的に急速に分解されることがウエスタンブロッティングにより確認された。これらの細胞にSVIPをトランスフェクションにより発現させると、その分解が顕著に抑制された。これらの結果から、細胞内に過剰量のSVIPが存在するとERADの阻害が起こることが明らかになり、SVIPの発現によって誘導される空胞形成機構との関連が示唆された。
|