われわれが独自に開発してきた「セミインタクト細胞系」及び「細胞内タンパク質動態可視化技術」を駆使し、小胞体ストレスに応答する細胞内小胞輸送の影響を研究し下記の結果を得た。ABCトランスポーターの一種ABCA1の変異体QRは、従来の活性発現場所である形質膜へは移行せず、小胞体内に蓄積することが知られている。1.QRのGFP融合タンパク質(QR-GFP)を恒常的に発現しているHEK293細胞株(以下、HEK(QR))を構築し、細胞内挙動をタイムラプス装置を持った共焦点レーザー顕微鏡で観察したところ、網目状の典型的な小胞体ネットワークに蓄積していることが判った。2.この細胞に還元剤(DTT)やタプシガルジン(Tg)などよる小胞体ストレスを付加すると、QR-GFPは小胞体から速やかに放出され核近傍のオルガネラに移行した。更にインキュベーションを続けるとQR-GFPのシグナルは形質膜にも観察された。細胞生物学的研究により、小胞体ストレスによってQR-GFPが通常の分泌経路を通り小胞輸送によって形質膜まで運ばれることを確認した。3.通常、小胞体ストレス不可により、小胞体-ゴルジ体間輸送は阻害される(VSVGts045蛋白質の輸送で確認)が、QR-GFPはむしろストレス応答的に開始されるacuteな反応であることが判った。4.この輸送は、{小胞体-ゴルジ体間輸送を阻害するBFAにより阻害されることより、COPI依存的な輸送であることも明らかにした。5.興味深いことに、この輸送は、ARF1ドミナントネガティブ蛋白質(通常の輸送は阻害される)によって活性化されることが判った。6.この輸送経路はセミインタクト細胞系では小胞体ストレスの有無にかかわらず進行した。これらのことより、この小胞輸送は、小胞体の小胞形成過程におけるQR-GFPの小胞内積み込みの為の選別過程での制御によるものであることが明らかになったため、現在、その細胞質因子、小胞体内腔の因子についてその制御に関わる因子を探索中である。
|