1996年に群体ホヤ体内から発見された原核藻類Acaryochloris marinaは主要光合成色素としてクロロフィルd(Chl d)を持つ。Chl dは高等植物で機能するChl aよりも長波長の光を吸収する。A.marinaは他の藻類・シアノバクテリアと同様に、酸素発生型の光合成を行い、二つの光化学系(PS1&PS2)を持つ。酸素発生型の光合成生物は、これまで例外なくChl aが主要色素だと見なされてきた。我々は、PS1およびPS2の反応中心には、それぞれChl a'(Chl aのエピマー)とフェオフィチン a(Phe a。Chl aのMgが脱離して2個の入った色素)が鍵色素として機能していると主張してきた。前者はPS1の電子供与体P700として、また後者はPS2の一次電子受容体として機能している。 A.marinaには、微少量ではあるがChl aが存在することから、我々はA.marinaにもChl aとPhe a'が鍵色素として存在すると推定した。ところが、A.marinaにはPhe aは検出されたものの、Chl a'は検出されなかった。代わりにChl d'が検出された。興味深いことに、主要色素のChl dからMgが外れたPhe dは検出されなかった。よって、A.marinaのPS1電子供与体P740はChl a'ではなくChl d'であり、PS2の反応中心は他の酸素発生型と同じくa型クロロフィルからなると強く示唆された。白熱灯の光強度を変えて培養しても、鍵色素のモル比Chl d'/Phe aは、ほぼ一定のままであった。すなわち、A.marinaのPS1/PS2比は白熱灯の光強度に依存しない。これは、光強度によってPS1/PS2が大きく変化するシアノバクテリアは大きく異なる。現在、この原因を探るべく、より短波長の光に富む蛍光灯で培養したA.marinaの色素分析を行っている。
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