研究概要 |
光合成初期過程の高効率光エネルギー変換を担う「反応中心」コア複合体につき,主要な電子伝達分子(クロロフィル類,キノン類)が生体内で有するレドックス電位を直接計測し,高効率光変換の背景をなす機能分子群のエネルギー準位チューニングを明るみに出すことを目的に研究を進めた。高等植物,緑藻,ラン藻類などの光合成器官から分画した光化学系Iタンパク質複合体を試料とし,チオールで表面修飾した金メッシュ電極と薄層電解セル(容積0.2 mL以下)を用いる分光電気化学計測システムを設計・試作した。金メッシュ電極(作用極)に印加する電位を変化させつつ可視〜近赤外部における試料の吸収スペクトルを一連に計測したところ,完全に可逆なP700の一電子酸化・再還元を観測することができ,その結果,過去40年にわたる報告値に160 mVほどのバラツキがあったP700のレドックス電位を誤差2 mV以内で精密に測定することに成功した。これを基礎として,約10種類の酸素発生型光合成生物の光化学系I標品につき予備的な計測を行ったところ,P700のレドックス電位が生物種により大きく異なり,ほぼ4種類のグループ(Gloeobacter=約+400 mV vs. SHE ; Thermosynechococcus elongatus, Spirulina=約+430 mV vs. SHE ; Synchocystis PCC6301 & 6803, Anabaena, Chlorella=約+450mV vs. SHE ; spinach=約+470 mV vs. SHE)に分類できること,その序列が進化系統樹(またはP700近傍に存在するアミノ酸残基)を反映することを示唆する結果を得た。
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